情報の時代だからこそ。
正直によいものを売っていく。

四国霊場第25番札所「津照寺(しんしょうじ)」のすぐ近く、室津港上に、室戸の鮮魚を一手に商う浦戸屋はある。
90年以上続く老舗を継いでいるのが、岡峯利明。3代目だ。
京都の大学に進み、高知市内で6年間、会計事務所勤めを経験した。
「長男やし、ゆくゆくは室戸に帰るつもりやった」。
先代とともに魚を目利きし、高知や安芸のお客さんはもとより、
お遍路さんなど県外からの客にも愛される鮮魚店だ。
店の一角には、山をバックにした登山姿の若者たちの写真。
大学時代はワンダーフォーゲル部で日本中の山を駆け巡った。
もう一角にはたくさんのCDとデッキがどんと。
ジャズ研究会で腕を鳴らしたトロンボーンは、高校のブラスバンド部時代から。
「今ではテレビで『日本名山』を観るのが楽しみ。楽器は玄関に置きっぱなし」と言うが、
夢中になっていたふたつの趣味、いつでも復活する準備はできている。
妻とはお見合い結婚。
中学から高知市で進学し、長く室戸を離れていたのに対し、
室戸育ちの妻の方が地元では顔を知られていたので、婿養子と思った人もあったとか。
「テレビやネットで誰でも情報を得られる時代。
室戸の“はしかい(気が短い)”人にも舌の肥えた都会の人にも、
間違いなくうまい魚を食べてもらいたい」。
だからこれからも、正直に売っていく。

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