染液に手を入れた瞬間、
藍染めに魅せられました。

それは、ぬめり気のあるぬるま湯に手をつけたような、まとわりつくような感触だった。
まるで手のひらから浄化されるような瞬間。
12年住んだ東京から室戸に帰ったのは、東日本大震災のあと。
幼い娘が余震を怖がり、原発や食材の安全も考えてのことだった。
「欲しいものも仕事もないからと東京に出たけれど、帰ってきたら室戸がどれだけ豊かな土地かと思い知りました」
そしてたまたま藍染めを体験したことで、新たな世界が開けた。
原料となるアイの葉が不足していると知り、完全オーガニックの葉づくりから始めたのが2年前。
SNSなどで拡散し、「お気にいりのTシャツやシミのついたワンピースを染めてリメイクしたい」
というニーズに対応したり、オリジナルの小物など制作している。
「まだまだアイが足りない。室戸には休耕田も多いので、アイ作りや藍染めを一緒にできる仲間を増やしたい」
と体験イベントで楽しさを伝え、最近では、手伝いをかってでてくれる若者も増えた。
もうひとつの顔は、港の上のBAR経営者。
室戸には若者が遊ぶ場がない、だったら作ろうと。
今では若者と、音楽好きのかっこいいおじさんの憩いの場だ。昼はアイの畑仕事や藍染め。夜はBARやDJ。
ふたつの顔を見守るのは、16歳からのつき合いという妻。
不安はあるが、震災をきっかけに人生をリセットしようと話した。
子育てによく、私たちも成長できる室戸に、戻ったことに悔いはない。

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