牛にも自分にも、
ストレスフリーがいちばん。

松本拓也は高知市の生まれ。
大学を出ていったんは就職したが、ある日目にした一枚の写真が運命を決めた。
農家の求人サイトで見た、放牧場で牛と写る男の写真だ。
「こんな生き方をしたい」と、強く思った。
大反対だった両親を説得し、高知県の畜産振興課に相談し、
父の故郷でもある室戸で牛飼いの師匠と出会う。
この春、崎山台地のさらに上の牧場を借りて山地放牧の繁殖農家としてデビュー 。
4頭の〝土佐あかうし〟 を、自然の中で育てている。
まずは5年後までの計画を立てて着々と進行中。
それでも子牛に種付けできるのは、生後 15 ヶ月頃から。
その先、出産まで10ヶ月、子牛市場に出荷するまで 8 ヶ月の飼育期間、
合計18 ヶ月は収入の道がないので、アルバイトしながら踏ん張る日々。
しかしその横顔に、悲壮感はみじんもなく。
「毎日朝と夕方に餌やり。体調確認をして小屋の掃除、水替え、
毒草刈り。忙しいけどぜんぜん大変じゃない」と、実に楽しそう。
テレビを持たない部屋で、夜はネットで音楽を聴きながら、
牛を縛る縄や草を束ねる縄を編む。
近い将来、40頭の〝あかうし〟が野山をのんびり歩く姿を夢想して。
「そうですねぇ。今は人間の女性より、牛のほうがわかりやすい、かなぁ」

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